金属アレルギーに着目し始めたきっかけ

チタンに手が入った

チタンには、クラフトの素材としての歴史が無い。それは、加工する点で可能性が無い材質だから。そしてこれからもチタンは工業製品ではあっても、クラフトとして広く使われることは無いだろう。真空のチャンバー内でしか手を入れることができないからだ。

チタンの指輪を量産するメーカーというのは、チタン工場のおじさんがほとんどで、チタンのワッシャーやナットの延長でリング状の商品を生産して売っている。ジュエリーとしてチタンが登場したとはいえ、加工性の低さ=硬さから、自由な造作を制限され、加工環境も制限されることから、人の手を入れるというのは並大抵のことではないのが現状。チタンは空気のあるところでロウ付けもできなければ、ガスを充満させたチャンバー内環境でなければ溶接も不可能だからだ。

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金属アレルギーに対応するために材料を勉強するきっかけになったできごと。

7年前当時は、シルバーアクセサリーの全盛時代でガボールやクロムハーツが猛威をふるっていた。ある若いレストランオーナーが、お客さんから高価なシルバーアクセサリーをたくさんプレゼントされるのだけど、着けると手がかぶれて真っ赤になり、リングの内側にマニキュアを塗ったりして苦労しているのだという。何とかならないものかと聞かれたのがはじまりだった。その後、金属アレルギーというのは、アクセサリー業界のめっき処理が金アレ疾患を増やしている張本人と知る。日本国内大手百貨店でも大手メーカー、ショップでも、シルバーの変色防止やプラチナには、ロジウムめっき処理されて販売されている。シルバーブームの次はゴールドだと言って、ゴールドプレーティング(金めっき)というのも流行ったことがあったが、これも金アレ疾患の元凶。 大量に出回る金アレの原因を作るめっきアクセサリーに大きな疑問を感じながら、金属アレルギーにならないための、純度の高いシルバーや、ロウ付けをいっさい使わない工夫で、アクセサリー造りをするようになった。ろうづけを使わないという作風が、チタンのロウ付けできない特質とみごとに合致したことから、作品のバリエーション研究が劇的に進んだわけだ。 チタンもサージカルステンレスも試しはじめた。ステンレスもシルバーのようにはロウ付けは出来ない素材。 お手本も、手引き書もない新種の素材であり、まったく手探りで、曲げてみたり、たたいてみたりした。 硬くて曲げてみようとしてもめりめりと音をたて、シルバーのような加工はできなかった。手も怪我だらけになったし、工具もすぐに壊れた。やすりも削れなくなりカッターの刃はぼろぼろになり、シルバーの加工も出来なくなるほどだったが、サージカルステンレスの磨いたときの密度は快感だったし、チタンのすべすべした手触りもシルバーと違う新しいものだった。どんどん試すうちに、失敗作の青いリングが出来てしまった。 苦労して輪っかと呼べるものになったチタンを指にはめて仕事をしていると、尋ねてきた人やお客さんからめずらしがられ、「それきれいだね」とおほめの言葉をたくさんいただくようにいなった。 試行錯誤しているだけで、客観的に見れなかったチタンを、ほめてもらうことで、これでいけるというような希望がうっすらと見えてきた。 チタンもサージカルステンレスも、硬くて加工が限られる。造作を施すにも限界があったので、鋳造できる医療機関や工場を調べ、見学に行った。 工場長のおじさんに、無茶なお願いをしたらしく、ちゃぶ台をひっくりかえすぞと追い返されたこともあった。医療機関の工程で使われるラボラトリーは、チタンの鋳造を引き受けてくれた。

それからまた、チタンを使った制作研究を続け、今日に至っている。 伝統のある金銀プラチナと違い、どこにも見本も教本もなかったから、自分が発明したような気でいるので、傍から見て見て、何でチタンに傾倒していったのか尋ねられてもわからない。最初からチタンをやろうとしたというより、チタンもシルバーもサージカルも、未知の素材に手を出した結果だから。 027monica.jpg インスタレーションの個展 ミラノ オープニングパーティーに指輪も披露するうち、現代アートよりも指輪作りがおもしろくなって、ショップを持ったのが2000年。

ステルスウェルスとは、一見質素なので見落としがちだが、実は素人目にわかりにくい領域に労を惜しまぬワザとコストが掛かった裕福さの意。

シンプルなデザインに隠れ潜むステルス ウェルスな贅沢さがわかるには、ものに対するうんちくを情報として知っておく必要があるとか

。 そんなうんちくを撒きながらチタンの指輪作ってます。

世の中には、主流と少数派があるとすれば、結婚指輪の主流は、細くて薬指にみなさんはめているシンプルなbandリング。そこへあえて、主流な価値観に属したくないと思うような、少数派的なひとが、違いのわかる人が求めるデザインがステルス ウェルス

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チタンの指輪ができあがるまで

指輪などのジュエリー、アクセサリーの制作工程 ∟量産 ∟一点もの

指輪が作られる過程には、2通りあり、鋳造とハンドメイドに大別できます。大きなジュエリーを作っている企業ではロストワックスという一度に同じものをたくさん作る方法で量産されます。職人とデザイナーは専門家が別の部門で作る工程となっています。

一方、企業でなく、ジュエリーデザイナー、宝飾職人、ジュエリー作家の手作りするジュエリー作品は、分業での生産ラインとはまったく違い、一人の作家がデザイン→草案を起こす工程から制作→研磨仕上げまでの一連の仕事を一貫して行っています。

企業の量産の場合は、ワックスモデリングで原型となる作品を別素材で彫り起こし鋳造します。それを何度もコピーできるように鋳造用のゴム型をつくります。ゴム型に温めたワックスを流し入れ原型を多数複製し、それを埋没材(石膏)に埋めて鋳型をつくるしくみです。(鋳造するときにワックスを入れる湯道と呼ばれる入り口部分を足にしてツリーのように立てられます。) ワックスは溶かされなくなります。そこに溶解した金属を流しこみ、冷めて固まったシルバーやゴールド、プラチナの作品を酸化皮膜と落とし、磨きあげ、完成した指輪ができあがります。

宝飾作家によってハンドメードで作られる指輪などのジュエリーは、まず指輪が、どのようなかたちで使用されるか、発注者の環境をも考慮して、デザインされます。 着ける人のライフスタイルにより、用としてのリングの機能美を考慮されて、良い指輪が出来上がります。 依頼主と作り手と綿密は打ち合わせにより、ジュエリーの着け心地はもちろん、指輪の形状と耐久性、金属アレルギーの有無に応じて、使用されるチタンなどのジュエリー材の選択に配慮した最上の1本となる指輪ができあがります。 たとえば激しいスポーツをする人の着けるリングと、指の長さをエレガントに見せたい人とでは、作り方のコンセプトがまったく別です。ひとりひとりのニーズ、環境、年齢などに合わせて生まれるのが作家によるオリジナルリングや一点ものジュエリーです。

結婚指輪をオリジナルで制作依頼する場合は量産される市販の指輪とはちがい、手作りの一点もの制作で仕立てられることになります。